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代表取締役の予選に関する考察と事例~その1・考察編~

コラム 商業登記

代表取締役の予選に関しては、専門家の間でも意見が割れていることもあり、深く考察してみることにしました。

代表取締役の予選について、
【前編】代表取締役の予選に関する考察と事例~その1・考察編~(←今回の記事)
【後編】代表取締役の予選に関する考察と事例~その2・事例編~
と2回に分けて、記事を掲載しようと思います。

(本テーマは、前提として、株主総会にて代表取締役を予選する場合には当てはまりませんので、ご注意ください)

さて、まずは考察編です。

色々な先生が、ブログ等で実務の取扱や見解を発信されていますが、そもそも、なぜ「専門家の間でも意見が割れている」ようなことが起きるのか。

それは、議論の根拠が、たった一つの「昭和41年1月20日付民事甲第271号民事局長回答」から出発し、その後、実務の積み重ねで運用や解釈が形成され、当初は、ながらく法務局間でも運用が異なっていたりしたこともあったのでしょう。また司法書士の先生の間でも、解釈に統一したものがなかったり、解釈にあたり、前提条件の認識が欠けたまま解釈している先生もおられたり、様々な事情があるのではないでしょうか。

上記の諸先生方の情報発信でも、しっかり考察されている先生もいれば、あまり深く考察されず、前提条件を欠いた設定で解説されている先生もおられ、ネットの情報は玉石混合であることがよくわかります。

さて、「昭和41年1月20日付民事甲第271号民事局長回答」ですが、以下の概要です。(ネットから引用したものですので、少し文言等、公式なものとは異なる可能性があります)

「定時株主総会において現任取締役の全員の将来の予選をなし、候補者は全員承諾をし、同日、取締役会において従前の取締役全員で将来の代表取締役を予選し、候補者は承諾をした。この場合において、将来の任期満了後直ちに従前の役員全員が重任(再任)されることの登記は受理できる。」
ただし、①予選決議当時の取締役と再選後の取締役が全員同じメンバーであること、②予選の期間が合理的な期間であること、が必要である。

この記事に行き着いたということは、代表取締役の予選について、非常に悩まれ、非常にお調べになられている司法書士や法務担当の方なのではないでしょうか。
ですので、基礎的な知識は割愛して、本題に切り込みたいと思います。

まず、この「昭和41年1月20日付民事甲第271号民事局長回答」は、前提として、予選後に「定時株主総会」を挟んで、【かつ】、「役員の任期満了」「役員の重任」を挟んでから、予選にかかる就任が成就する、ということが最大のポイントです。

民事局長回答の論点としては、取締役の前提地位、任期満了に伴う一時的な地位の喪失、に絡めて代表取締役の予選ができるか、という議論があり、その上で、取締役の構成員の問題、期間の問題に議論が移るのであります。

ここを無視して、取締役会の構成員が予選時と就任時で同一で、期間が空きすぎていなかったら代表取締役の予選はOK、と解説されてる情報をよく見かけます。

民事局長回答の議論としては、
1、予選時に取締役の地位にない将来に取締役に就任予定の者を代表取締役として予選ができるか、という議論、
2、前記1の上で、予選時に取締役の地位にある者が定時株主総会後に任期満了を迎え、再任した場合、任期満了に伴う一時的な地位の喪失があるが、それでも予選の対象となるのか、という議論、

という上記議論があり、実は、上記の1と2の間には、
(1.5)、予選時に取締役の地位にある者を代表取締役として予選ができるか、という議論が隠れています。

上記の1~2を前提として、これらのアンサーに条件を付して完成したのが、「昭和41年1月20日付民事甲第271号民事局長回答」です。

アンサーとしては、以下の通り。
1、取締役の地位にない者を代表取締役に選任することはできず、これは予選も同様であり、予選時に取締役の地位にない将来に取締役に就任予定の者を代表取締役として予選はできない、
(1.5)、隠れ議論のため回答はないが<条件付きで>できる、と解釈できる、
2、上記1として、予選時に取締役の地位にある者が定時株主総会で任期満了を迎え、再任した場合、【当該取締役は、一度取締役の地位を喪失しているが】【条件付きで】予選することができる。

ポイントの一つとしては、上記1+(1.5)議論を前提として、2の議論が導かれています。
こうやって改めてみると、この局長回答は奥が深い。
「代表取締役の選任(予選を含む)前提として取締役の地位が必要」という議論から、重任しても任期満了すれば取締役の地位を一度失うので、予選後に任期満了の事情がある場合は「代表取締役の前提として取締役の地位が必要」という条件を欠くのではないか、という議論なのです。

また、【 】の隠れ文言が、局長回答を理解する上でのポイントですね。
上記1+(1.5)議論を前提として、2の議論が導かれ、このアンサーに付した条件が
①予選決議当時の取締役と再選後の取締役が全員同じメンバーであること、
②予選の期間が合理的な期間であること、
が必要である、と回答しているのです。

この付した条件にも隠し文言が入っています。
①予選決議当時の取締役と【予選後の役員任期満了後に伴う定時株主総会での】再選後の取締役が全員同じメンバーであること、

【 】が非常に重要です。
「再選」の文言から、当然「役員の任期満了に伴う」再選ということになろうかと思います。

上記の【 】3つの隠れ文言を勘案すると、この局長回答は、あくまで、代表取締役を予選する上で、取締役の地位があるか否か、もしくは任期切れして再任した場合は連続性を認めるのか、を重要視した回答であることがわかります。

前記の(1.5)の隠された議論、条件の【 】の隠された文言、この2点により、非常に解釈をしにくい論点になっており、局長回答の前提を十分に吟味せずに、回答だけを参照し、解釈してしまうため、「専門家の間でも意見が割れている」状態になってしまったのではないかと思います。

そもそも、民事局長回答の時代は、取締役の任期が「2年」みたいになっていて、今とは異なり、「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」、というようなものではなかったので、任期に合わせて総会を開催しにくかったので、取締役を予選した上で、代表取締役を予選したい、というニーズがかなりあったのでしょう。

後編の事例編にて、任期を現代風にした上で【事例1、2、3、4】として、例をあげて可否を検討してみましょう。

さて、事例は後述するとして、上記の考察から次の疑問が出てきます。

局長回答が、あくまで、代表取締役を予選する上で、取締役の地位があるか否か、もしくは任期切れして再任した場合は連続性を認めるのか、を重要視した回答であることを前提に、

役員の任期満了に伴う改選がないような場合で、
(1.5)予選時に取締役の地位にある者を代表取締役として予選ができるか、
ということです。

例えば、
取締役 ABCD 代表取締役A
3月15日 代表取締役Bを予選(就任は4月1日)
Aは3月31日に取締役を辞任
(代表取締役就任時の取締役 BCD)

こんな場合はどうでしょう。
任期満了や重任を挟みません。
正直、「昭和41年1月20日付民事甲第271号民事局長回答」の回答範囲の外のお話です。

局長回答の解釈、
1、取締役の地位にない者を代表取締役に選任・予選することはできない。
2、予選時に取締役の地位にある者が定時株主総会で任期満了を迎え、再任した場合、【当該取締役は、一度取締役の地位を喪失しているが】【条件付きで】予選することができる。

逆に、上記アンサー2の前提となっている、隠れアンサー(1.5)は、アンサー2の前提となっていることから、逆の解釈をすれば、
1、取締役の地位にある者を代表取締役に予選することはできる、
2、上記1で任期切れからの再選がなければ、本項は検討の必要なし、
との結論になり、役員の任期満了が絡まなければ、局長回答の範囲ではない、ということになります。
局長回答の範囲ではない=予選可、というわけではないのですけどもね。

この事例で言うと、任期が一度切れるわけではないので、予選を認めてもよいと思いますし、同意見の専門家も多いです。
この点も、専門家の間で意見が分かれている部分でしょう。

結論から言うと、法務局は、局長回答をどのような予選にも適用し、予選全体に適用しますので、役員の任期満了を挟まなくとも、予選時の取締役メンバーと就任時の取締役メンバーの一致を求めます。
法律上、形式的審査で基本的な事務を進行する法務局らしい態度ではあります。

代表取締役の予選について、多くの専門家の方々が、ネットでの情報公開されていますが、ここまで踏み込んでいる先生は多くないと思います。
逆にここまで言及されている先生も少なくはありませんので、そんな先生は、局長回答の前提をよく理解し、回答の内容をよく検討されているのだと思います。

臨時株主総会パターンの具体例は、後述の【事例7】で検討してみましょう。

さて、「考察編」は、このあたりまでにしておいて、次回、
【後編】代表取締役の予選に関する考察と事例~その2・事例編~
にて、具体的に事例を設定し、予選の可否を検討していきましょう。

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