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代表取締役の予選に関する考察と事例~その2・事例編~

コラム 商業登記

代表取締役の予選について、
【前編】代表取締役の予選に関する考察と事例~その1・考察編~
【後編】代表取締役の予選に関する考察と事例~その2・事例編~(←今回の記事)
と2回に分けて、記事を掲載しております。

(本テーマは、前提として、株主総会にて代表取締役を予選する場合には当てはまりませんので、ご注意ください)

前回の「考察編」では、代表取締役の予選にかかる「昭和41年1月20日付民事甲第271号民事局長回答」について、局長回答を掘り下げて解釈し、予選できる条件等を検討した理論的な記事を掲載しました。

今回は、お待ちかね「事例編」です。
事例設定して、代表取締役の予選の可否を検討してみましょう。
論点を複雑にしない様に、全て予選と就任の期間は局長回答が許容する範囲内とします。

【事例1】
取締役ABCD 代表取締役A
代表取締役Aを予選
定時株主総会 ABCD重任
(代表取締役就任時の取締役 ABCD)

→ばっちり、局長回答のとおりの事例ですね。
問題なく予選可。

【事例2】
取締役ABC 代表取締役A
代表取締役Dを予選
定時株主総会 BC重任 D就任 A任期満了退任
(代表取締役就任時の取締役 BCD)

→Dが予選時に、取締役ではない。取締役でないものを代表取締役に選任ことはできないのであり、予選においても同じである。
よって、予選不可。

【事例3】
取締役ABC 代表取締役A
3月25日 代表取締役Aを予選(就任4月10日)
4月5日 定時株主総会 ABC重任 D即時就任
(代表取締役就任時の取締役 ABCD)

→代表取締役の選定に関し、Dの意見が反映されないとして、予選不可。
まあ、理屈としてはわかる。メンバー不一致事例ですね。

【事例4】
取締役ABCD 代表取締役A
代表取締役Aを予選
定時株主総会 ABC重任 D任期満了退任
(代表取締役就任時の取締役 ABC)

→予選時のメンバーが就任時に全員いるからいいのでは、と思いますが予選不可。
局長回答でいう条件の1つ「予選決議当時の取締役と再選後の取締役が全員同じメンバーであること」に形式上抵触する。
法務局は、局長回答を形式上で厳密に維持します。
ある専門書では、「就任時に取締役でなくなるDが取締役でいる時の代表取締役の予選は認められないとするのが登記実務の大勢」とか「退任予定の取締役を参加させた代表取締役の予選決議は認められない」と解説されているようです。
この2つの「 」内の表現は、よく覚えておいて頂きたいです。
後述【事例7】にて検討します。

【事例5】
取締役ABCD 代表取締役A
取締役ABC(D欠席)で代表取締役Aを予選
定時株主総会 ABC重任 D任期満了退任
(代表取締役就任時の取締役 ABC)

→少し古い情報ですが、ある先生は、局長回答の条件「予選決議当時の取締役と再選後の取締役が全員同じメンバーであること」を予選時の取締役会構成メンバーではなく、予選決議メンバーと就任時構成メンバーが同一として解釈し、上記例で、法務局へ事前に照会の上、法務局が受理し、登記できた、予選可、との情報がネットで出てきます。
古い事例なので、何とも言えませんが、今は、当職は予選不可だと思います。
法務局は、局長回答を形式上で厳密に維持する、というのが理由です。
局長回答の条件「予選決議当時の取締役と再選後の取締役が全員同じメンバーであること」は、予選時の取締役会の構成メンバーと就任時の取締役会の構成メンバーと解釈するべきだと考えています。

【事例6】
上記【事例5】を逆解釈してみましょう。
取締役ABCD 代表取締役A
3月15日 取締役 ABC(D欠席)で代表取締役Aを予選
定時株主総会 ABCD重任
(代表取締役就任時の取締役 ABCD)

→事例5が予選可だとして解釈すると、この事例6は予選不可、になってしまいますよね。
事例5を予選不可とした同様の理由から、当職は、この事例6は、予選可、であると思います。
でも、実際には経験したことがない事例です。
実際にご依頼をお請けした場合は、念のために事前照会すると思います。

【事例7】
取締役ABC 代表取締役A
3月15日 代表取締役Aが辞任届提出(4月1日24時にて辞任)
3月20日 臨時株主総会 取締役D 選任(即時就任)
3月25日 代表取締役Dを予選(4月1日0時就任)
(代表取締役予選時の取締役 ABCD)
(代表取締役就任時の取締役 ABCD)

→この事例、とある弁護士が「代表取締役の予選は限定的」「株主総会において取締役が全員再選されて取締役に変動を生じない場合という限定的な場面でしか使えない」として、予選を否定しています。
その根拠が「ある専門書では、「就任時に取締役でなくなるDが取締役でいる時の代表取締役の予選は認められないとするのが登記実務の大勢」と解説」し、「辞任の効力は発生していないが、Aが取締役を辞任することは分かっており、代表取締役就任時点での実質取締役はBCDであり、メンバー不一致」と述べております。
弁護士が参照されたものとは違う、別の専門書では、「退任予定の取締役を参加させた代表取締役の予選決議は認められない」と解説されています。

そうなのか!!と思いましたが、ちょっと待ってください。
上記の【事例4】を見て下さい。
上記2つの専門書の解説は、局長回答を前提として解説されていると考えます。
局長回答は、あくまで、代表取締役を予選する上で、取締役の地位があるか否か、もしくは任期切れして再任した場合は連続性を認めるのか、を重要視した回答であります。
よって、定時株主総会、役員任期満了に伴う重任(事例4のABC)と退任(事例4のD)を前提として、事例4のような取締役が任期満了で減員となって、予選時メンバーと就任メンバーが一致しないような場合に予選ができない根拠として、「就任時に取締役でなくなるDが取締役でいる時の代表取締役の予選は認められないとするのが登記実務の大勢」「退任予定の取締役を参加させた代表取締役の予選決議は認められない」と解説しています。
あくまで任期満了退任による取締役の減員によりメンバー不一致を招く場合に、予選不可とする理由として解説されているのです。
まさしく【事例4】の根拠として解説されています。

上記の事例7には当てはまりません。
上記の事例7は、定時株主総会や役員の任期満了に伴う重任を挟みませんので、同日中とはいえ、選任時と就任時のメンバーを一致させております。
解説書の「就任時に取締役でなくなるD」「退任予定の取締役(D)」というのは、あくまで「任期満了で退任を予定し、結果、就任時に「実際に」取締役でなくなったD」のことを指した上で、メンバー不一致による予選否定の根拠を解説したものであり、本事例7では、退任を予定していても、就任時に実際にメンバーでいるため、予選決議が不成立になるということはないと考えます。
取締役が決議に挑み「退任予定」のみが決議の成立に左右されるなんてことは、あってはならないとも考えます。
また、退任予定の意志表示を表に表示していない場合、議事決定がとても不安定になります。1個人の内心が決議の成立を左右させることは、法的にとても不安定であり、形式審査を主とする登記審査にも馴染みません。

よって、左記の弁護士の見解である「辞任の効力は発生していないが、Aが取締役を辞任することは分かっており、代表取締役就任時点での実質取締役はBCDであり、メンバー不一致」とする解釈は、行き過ぎた解釈であると考えます。
「【実質取締役】はBCD」という概念が、登記実務上、出会ったことがないです。
(当職が未熟なだけかもしれません。)

ただ、本事例7は、定時株主総会や役員の任期満了に伴う重任を挟まないといっても、考察編で述べた通り、法務局は、局長回答をどのような予選にも適用し、予選全体に適用しますので、選任時と就任時のメンバーを形式的に一致させる必要があります。

よって、【事例7】は、予選可、です。
(しかも、代表取締役の選定にかかる取締役全員の印鑑証明書を省略できるというオマケつきです。)
なぜこんなに強気なのかというと、上記見解のもと申請した登記が通ったからです(笑)

上記の弁護士の記事は、代表取締役の予選をネット検索した時、結構上位に表示されますので、注意して頂きたいですね。

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