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行政手続きにおける押印廃止について

コラム 不動産登記 商業登記 許認可

行政改革のひとつで、行政手続きにおける押印の廃止が推し進められていますが、その影響により、許認可等の実務上でも大きく手続き上の変更が進められています。

そもそも我々のように法律のお仕事をしている場合、「押印」というとまず頭に思い浮かぶのが、民事訴訟法の規定です。

次に引用します。

(文書の成立)
第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
2 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
3 公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
5 第二項及び第三項の規定は、外国の官庁又は公署の作成に係るものと認めるべき文書について準用する。

法律をお仕事としている者としては、この条文を見ればすぐに「二段の推定」なんていう法律論がでてくるのですが、本テーマでは、このような難しい法律論を掘り下げて語るつもりはありません。

本条文の中で、本テーマで注目すべきは、第4項であり「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」という内容です。

ごくごく簡単に言うと、文書は、1署名「または」2押印があれば、裁判で文書として採用しますと、という内容になります。

文書は、いざという時に裁判に利用するために作成されます。よって、裁判所に文書として取り上げてもらうためには、「署名」または「記名押印」が必要になります。

署名は、争いになった場合に、後日にこれを証明する場合は、鑑定等が必要です。しかし、押印であれば、印鑑登録の制度がありますので、印鑑証明書の提出を受けていれば、この証明は極めて簡便に済みます。

このような事情もあり、栄えた印鑑の文化が維持されてきた経緯があります。

あくまで上記は「民事」の分野でのお話になります。

さて、行政手続き上の押印廃止に話を戻しましょう。

行政の手続きにおいて、主に私人として必要なアクセスは、申請や届出になるかと思います。
これまで行政手続きの申請等に関して、押印が求められていたのは、上記の民事での取り扱いが基礎になっていたこともあるかと思います。

昨今の行政手続きにおける押印廃止の流れを聞いていると、私としては、「押印は不要になるんだなぁ、サインだけで済むんだなぁ」なんて思っておりましたが、この流れからの許認可等の実務上の変更を見ていると、サインすら不要との扱いに変更がなされています。パソコンで書類に氏名が印字され、記名ていれば、それでOKということになります。

前記の民事上の知識があると、少しギョッとします。

しかし、許認可等の申請に関し、例えば申請書が記名のみであっても、申請の記名の名義について、申請窓口で本人確認ができれば、その申請書類は、本人が申請の意志をもって提出し、申請を行っているのですから、申請行為自体に問題は無く、行政がこれを受理しても差し支えないとも言えます。

しかしです。
長々と申し上げましたが、ここから本題です。

許認可等の添付書類の中には、例えば「誓約書」等の書類を添付することが多くあります。
主に、申請する許可等に関し、欠格事由(該当があれば許可が受けれない事由)に該当しない旨を行政に対して誓約する書類になります。
現在の流れでは、この誓約書も、記名のみでOKの取り扱いの流れになっています。
(今回当職が直面したのは古物商の許可申請です。)

これでいいのか??って思いますね。

申請書等では、その申請書等の文書の名義と、申請を行う主体とが同一であり、行政が何らかの本人確認をしっかり行えば(申請受理時の確認や審査後の通知等、なりすましを防ぐ何らかの方法があるはず)、申請行為自体を本人の意思とみて、申請を受理して差し支えないと考えます。
しかし、添付書類の誓約書等は事情が異なります。
これらは、申請主体ではない第三者の誓約を証する文書になることが少なくありません。

例えば、申請主体の法人の役員や事業管理者等の複数名が欠格事由に該当していない旨をそれぞれの役員や管理者が誓約書を提出してこれを証する場合、申請主体とは異なる第三者の誓約書を記名だけで誓約したとしてOK、というのは少し無理があるように思います。
誓約書に、氏名を印字しているだけです。特に申請主体とは異なる第三者の誓約が必要な事情のもとでは、印字だけで誓約の事実を認識することは難しいと思います。

押印廃止が、トップダウンで推し進められて、深く検討がなされていないという感じがします。
この記事を実際に執筆している令和3年4月時点でのことですので、これからさらなる運用のブラッシュアップが進み、このあたりは是正されていくかもしれません(というよりも是正が必要と感じます)。

押印廃止は結構ですが、申請者主体とは異なる文書などは、押印はなくともいいと思いますが、せめてサインを求める等、その文書名義の意思確認の担保が必要に思います。
また、運用として、サインのみでOK、というならば、記名押印でもOK、とすべきですよね。
サインのみに限って受付して、記名押印ではダメで受付しない、となるならば、本末転倒な気もします。

文書の性質をしっかり判断して、記名だけでよいかどうか、文書ごとにしっかり区別をする必要があると思います。

建設業等の許可でも押印なしの書類の改定が進んでいますし、商業登記の分野でも、例えば株主リストの押印は不要等の変更が進んでいます。

民事訴訟法の規定から、押印なんて不要でサインで十分、と思っていた当職としては、押印廃止は大賛成ではありますが、行政宛てとは言え、第三者の証明文書でもサインすら不要とする行き過ぎた適用に少し疑問を感じます。

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